第5章 君に愛ある手料理を
それから、家の近くまで透ちゃんを送った後に見覚えのある背中を見つけた。
「母さん」
くるりとこちらを向き直ったのは、僕ら六つ子の母さんだ。重そうな袋を両手に抱えて、群青とオレンジが混ざった空をバックに手を振る。
「あら、チョロ松じゃない?どうしたの?こんな所で」
さり気なく母さんから袋を一つ取りながら、僕は困ったように笑う。
「いや、なんとなく」
さすがに女の子を拾って届けた帰りだなんて言えなくて、すかさずお茶を濁す。空に一番星がキラリと光ってて、親子で歩くにはちょっとロマンチックな道すぎる。
「あら?そうなの?」
夏が終わって、少し肌寒くなった風。
透ちゃんはちゃんと家に帰れただろうか。
「ねぇ母さん?」
荷物が重いのか少し手にくいこんでくるのを、ぐっと持ち上げながら僕は空の星を見てつぶやく。
「身体にいい料理ってどんなの?」
「あら、珍しいわね?そんな事きくなんて?なーに?頭でも打ったの?」
「いや、実の母親があんまりだろ!」
ツッコミを入れると、ふふふっと母さんが笑う。
「そうねぇ、やっぱり野菜もお肉もきちんととれるものかしら?」
んーっと考えこみながら、僕の質問に答えてくれる。
僕もまたそれをききながら、バランスのいい食事を考える。
目の前であんなの見ちゃったら、誰だって考える事くらいはしちゃうよね。綺麗に手を合わせてくれた透ちゃんを思い出して、一番星に願う。
あの子がご飯をちゃんと食べれる様になりますようにって...。