第5章 君に愛ある手料理を
「出してくれたから」
屈託の無い答えだった。
即答された言葉があまりにもシンプルで...。
「だから、食べてくれようとしたの?」
「うん、嬉しかったの」
「そっか」
水を絞る音と、柱時計が静かに響いて時を告げる。
「そう言えば、君名前は?」
「...透、宮野透」
「ふーん、透ちゃんって言うんだ?歳は幾つなの?」
「14歳」
「若いね」
クスクス笑いながら、よいしょとバケツを持つ。
時間が過ぎるのはあっという間のようでボーンボーンと柱時計の音、丁度18時だ。それにしても母さん遅いな。
「そろそろ帰らないと、親御さん心配するんじゃない?」
「...うん」
「ちょっと待ってね」
僕はバケツを急いで片付けて、手を洗い透ちゃんの元まで走る。
「さて、行こうか」
僕の一言に透ちゃんは、ぽかんと口を開けて僕を見つめるもんだから思わず笑った。
「そんなに口開けてどうしたの?」
「行くって?」
「透ちゃんの家の近く、送ってくよ」
困った顔をする透ちゃんは、もじもじと目で僕に何かをうったえる。どうやら気が引けてしまっているらしい。
「気にしないで、ほら行くよ」
女の子をリードするとか、できる男ではないけれどそれが子守りとなれば別。女としてではなく、どちらかというと保護者みたいな感じ。
なんて、ずうずうしいかな。
これが透ちゃんとの出会い。