第5章 君に愛ある手料理を
「ごめん。ごめんなさい」
お茶を飲み終えたその子は、何度も何度も僕に謝る。
僕はというと、ぞうきんで彼女の吐き出した後片付け。
「気にしないで、それよりもごめんね?食べれない物を出して」
肩をさすった時、変だとは思ってた。
さすがに童貞で女の子に触れた事がなくたって、細すぎるくらいはわかる。この症状、YES世界の仰天ニュースでやってたやつだ。
「その、君って...拒食症...だったりする?」
「そう」
「...そっか」
後片付けをしながら、僕は胸が痛かった。
だってさ、お腹減って倒れてたのにご飯食べられないだなんてって考えたら...。
「...怒らないの?」
それなのに、不安そうにその子は僕を見つめる。
「どうして、怒るの?」
できるだけ、優しくたずねてみれば下を向いてぽつりぽつり言葉を零す。
「だって、吐いちゃったし、よごして、しかも今日会ったばっかりで...」
用意していたゴミ袋にぞうきんを入れて、僕はその子に笑った。
「たしかに、怒る要素はあるかもしれないね。でもね?君の方が辛いでしょ?」
新しいぞうきんを出して、バケツの中で水を絞る。
初めて会った相手、優しくする理由なんてなにもないけれど痩せた肩に同情したのかもしれない。
「優しい...んだ、お兄さん」
「そんな事ないよ、元はと言えば僕がここまで君を連れてきちゃったし...」
床を拭きながら笑う。
ただ一つだけ気になる事があった。
「ねぇ?一つ聴いてもいい?」
「なに?」
「君、多分これが初めてって訳じゃないよね?どうして食べようと思ったの?」
食べる事が怖いという病気だと、テレビで言っていた。うっすらとある記憶の中、それが気になって仕方なかった。