第4章 君が乞われてしまう前に
「一松にぃさぁん...」
おどろおどろしい声が部屋に響いた。
呪われてんじゃないって感じの声で十四松がオレを呼ぶ。
「ねぇ...最近透ちゃんすっごい冷たいんだよ!」
口は相変わらず大きくて笑ってるんだけど、目が笑ってない。
「一松にいさん、透ちゃんになんかした?」
猫語と書かれた雑誌をペラリペラリめくりながら、全然と平然と言って退ける。
かすかに冷たい秋の風、あの日いらい彼女さんは松野家に来なくなった。
...と言っても1週間ぐらい。
そんな大騒ぎするほどでもないし、ただ単に忙しいってだけかもしれない。
それなのにソワソワソワソワと主人を失った子犬のように十四松の心は落ち着かない。ボヨンボヨンと跳ねる球体の上で、空を見つめる。
「透ちゃん、僕のこと嫌いにな...」
「なるわけない」
言い終わる前に否定してパタンと雑誌を閉じる。
十四松の事を嫌いになるなんてあるわけがない。
「...猫にエサあげてくる」
「...うん」
元気のない返事を背に玄関へと向かう。
ガララと戸を開けて一歩外にでると、秋空に雲一つない快晴。
清々しい天気とかオレに合わない。
どっちかというと、曇り空の方が好き。
カランカランと下駄を鳴らしながら、ふらりふらりと向かうはニートと廃人とリストラされたサラリーマンの聖地、公園。
え?
他に行くとこないのか?
あるわけない、すみませんね道端で息して。