第4章 君が乞われてしまう前に
彼女さんが来たのがよほど嬉しかったのか、はしゃぎすぎた十四松は幸せそうに眠ってた。
しかも彼女さんの膝の上で、本当みせつけてくれるよね。
「十四松くんたら、寝ちゃった」
優しく頭を撫でるその姿は、もう彼女とかじゃなくて本当にお母さんかなにかみたい。
すっと1陣秋の風が舞い込んで、彼女さんの髪を揺らした。ひんやりと冷たい風がオレの頬もなでて、ちょっと寒い。
「うわぁ、もうすっかり秋だね?十四松くん風邪ひいちゃわないかな?」
「...馬鹿は風邪ひかないっていうから大丈夫でしょ ?」
「えっ?でも冬に風邪ひいたって聞いたよ?しかもご兄妹全員仲良く」
あの時の風邪の事は思い出したくもない。
ケーキを頬張りつつ、手を伸ばす。
「はい」
そう言ってオレの目の前にミルクが置かれる。
「どうも」
濃いめにした紅茶にミルクをたっぷりと足していく、透き通った紅色が優しい亜麻色に変わっていくのをみながらぼうっとその時間に浸る。
「紅茶、ミルクティ派でしょ?」
「...別に、入れたかっただけ」
「チョコにはあうもんね?」
ニコニコ笑う彼女さん、十四松の大切な彼女さん。
「...ねぇ」
はぐっと大きめに切り取ったケーキを口に頬張り、くっと紅茶を飲む。確かに相性は最高。
「...チョコに合うとか誰が勝手に決めんの?」
予想外の質問にちょっと困った顔をする。
「ほ、本とかでみるから...」
「...それはさ、万人の答えでしょ?」
じとっとそちらをみれば、また面食らった顔してオレを見つめる。
「誰かがそう言ったから自分はそうなの?自分が好きだからじゃないの?」
その言葉を放った後、ものすごく悲しい顔をする。
オレの目をいち早くそらして、憂いを秘めた目で窓の外を見る。
「そう...だね...」
蚊の鳴くような声が、静かに響いた。
チリンとつけたままの風鈴が寂しげに泣く。