第3章 疲れた時は、側にいて?
バッシャーーんと目の前の川から水飛沫が飛んできた。
「な、なな!?何事!?」
制服のスカートをはらって駆け寄ってみれば、黄色い野球帽をかぶった人がザバンと出てきた。
「だ、誰!?」
聞くまでもなく不審者、どっからどう見ても不審者。
そうただの不審者。
「十四松です!」
おっきい声でそう言われてぽかんと口をあける。
その名前は本名なんだろうか?キラキラネームというやつだろうか?
「えーと、お兄さん?何してるの?」
「えっとね、えっとね、なんか悲しい背中が見えたから飛んできた!」
そんなわけわかんないことを言っていたお兄さんこと十四松さんは、私をじっと見つめる。
「泣いてたでしょ!はいっ!あげる!」
1度手をふきふきした十四松さんは、手からレモン味の飴をこぼす。
「たぶん袋に入ってるから中身は綺麗だよ!それに濡れないように気をつけて飛び込んだし!」
おっきい口で笑って言われたら、いらないですとも言えない。
「あれだよ!ケンカした時はね!意地を張らず謝ればいいんだよ!」
たしかに、つい最近この場所で友達と喧嘩してしまった。まだ謝れずにいた私はもんもんと川を見つめて、はあっとため息をついている最中だった。
なんでその事を知っているのかわからなかったけれど、その言葉に思わず頷いてしまう。
「よし!じゃあ頑張って謝りマッスル!仲直りしてまたここで笑って欲しいっす!」
にっこりと太陽みたいな眩しい笑顔のその奇人は、その言葉を残して川を泳いでいった。
あれはいったいなんだったんだろう?
もしかして、川の精霊かなんか?
よくはわからないけれど、貰った飴玉を口にほおりこんでみると優しい味がした。
「世の中変な体験をする事もあるもんだな...」
川の精霊こと十四松さん。
貴方の家の近くの川にもやってくるかもしれない。
ー天使は天からではなく、川からやってくるー