第10章 それでも貴方が好きでした
「さよならなの?」
クリスマスの灯りが酷く歪んで見えた。
コートの長い袖を冷たい風に揺られて、貴方はコクリと頷く。
イヤだ、その一言をいう権利は私にはなくてただ泣きそうになるのを抑えた。
「君が幸せなら、僕は...」
消えそうな声で貴方は言葉を漏らす。
そっと頬に触れようとする手が、私に触れるか触れないかで止まる。
「十四松くん...」
「どうか、幸せで...」
袖の中の暖かい手は私に触れること無く、下へとおろされてガックリと力をなくし風に吹かれる。
違う。
違うよ、十四松くん。
貴方が幸せならと言いたいのは私なんだよ。
けれど貴方の気を引きたいがために、ほかの人と関係を持ってしまった私のどの口がそんな事を語るのだろう。
もうこの身体は汚れてしまったけれど、心は貴方のモノだなんて身勝手もいいところだ。
身体が汚れてしまったなんて、私と関係をもったその人に対しても失礼だ。
そして、こんな事を思う私が1番汚くて、醜い人間なんだろう。
触れたいのに触れられないのは、私も同じなんておこがましい。
同じなんかじゃない、きっとずっとドロドロとしていて言葉で表すには汚くて...。
時間を戻せるなら、なんにでも頼ってしまいたい。
サンタでも悪魔でもなんでもいいから。
「さようなら、透ちゃん」
寂しげに笑う貴方が遠ざかる、その瞬間私は長いコートの袖をグッと掴んだ。
はっとした表情のまま貴方はこちらを見つめ、その瞳の中に私がうつりこむ。
とても悲しそうな顔をした私が。
「ねぇ、十四松くん?このままクリスマスイブに1人の夜なんて嫌だよ。だから最後の思い出に私と遊んでくれないかな?」
お願いどうか...。
悪魔に魂を売り渡すように悪女にだってなってみせるから、最後に貴方の思い出を私に下さい...。