第10章 それでも貴方が好きでした
「んー、でもやっぱりここにいるよ」
きっぱりとそう言われて、逆に面食らってしまう。
そんな答えがかえってくるなんて思ってもなかったからだ。
「えと、あれなんだよ?男の人は座ってていいの、私が全部するから」
昔ながらの考えだと自分でも呆れてくるが、自分の家では母がずっとそうしていた。
なんだったら、これは親の教えで、男の人を家で働かせてはダメだと教えこまれていたのだ。
よくわからないけど、それが私の普通だった。
それなのにそれとは違う異質な状態に、戸惑いを隠せなかったのだ。
「男とか関係ないよ?」
不思議そうに私を見るその瞳に、私は何も言えなくなった。
「僕、君を手伝いたい。だから、手伝える事ができるまで待ってる」
優しい顔で貴方はそう言う。
玉ねぎを切っているわけでもないのに、何故だか涙が出てきて、止まらなかった。
何かを許されたかのような気持ちになって、ただぼうっと貴方を見つめる私は変な人。
「あれ?なんで泣くの?僕変な事言ったかな?ごめんね?」
心配そうにのぞき込む貴方が、たまらなく愛しいと思った。
愛しいと思って、涙が出た。
そんな事は初めてで、たとえようのない気持ちに身体が勝手に答えたんだろう。
「ありがとう、ありがとうね、十四松くん」
黄色いパーカーの袖が私の涙をすくった。
不思議そうに、心配そうに見つめる貴方が、その暖かい手がたまらなく好きだと、愛しいとそう思えばまた何故だか泣きたくなる。
グズグズとなる鼻、じゃあこれをお願いしようかなと笑えば嬉しそうに貴方は笑う。
「まかせて!」
貴方は笑った。
私も笑ってた。
けど、そんな愛しい貴方はもういない。