第10章 それでも貴方が好きでした
貴方は、いつも私の後ろにいた。
料理中に後ろに立たれると気になるって困った顔をする私に、笑顔でごめんねという人だった。
今まで付き合ってきた男の人達の中で、本当に稀な存在だとそんなふうに思っていた。
だいたいの人は、キッチンまで来てはくれないしなんだったらテレビとかみてるだろうし。
後ろにいて料理をしてる私をみてるなんて、変な感じでむず痒かった。
「落ち着かないよ、テレビ見ててもいいよ」
そう言ってみたが、貴方の大きな口はあいたままフルフルと横に首を振る。
「見てても面白いことなんてないよ?」
米をときながら私は苦笑いをする。
けれど貴方はそんな事はないよとやっぱり笑っていた。
「十四松くんて変な人だね」
困ったように笑って本音を言えば、貴方はにっこりと笑って何が変なのかわからないというのだ。
「だって、普通男の人って待ってるとかじゃない?そんなふうにずっと後ろにいたりしないよ?」
「そうなの?僕わかんなかったや」
どうやら彼の認識はズレているらしい。
それがおかしくて私はまた笑う。
変な人、なのにどうしてか胸が暖かい。
「座ってていいよ」
そう言ってはみたけれど、なんだか自分が言っていることが本心でない気がした。
「ううん、僕ここにいる。なにかあったらなんでも言って?手伝うよ」
私は米をとく手をピタリと止めた。
今まで、そんなふうに言ってくれた人はいたろうか?
わからない、わからないけど私には不思議でたまらなくて。
なんとも言えない気持ちで、胸を侵食されていく。
「今は手伝えることないから、座ってていいんだよ?」
自分がなぜここまで拒んだのかはわからなかったけれど、貴方がそばに居ることを拒んだ。