第8章 どうか無いものねだりでも
〜一松side〜
無言で身体を抱き寄せられれば、透の匂いが脳にまで入りこんできた。
下を見れば、潤んだ瞳が照明をうつしこんでキラキラと揺れている。
久しぶりに触れた唇に言葉を無くしていれば、甘い香りのせいで自分の中の欲がおさえきれそうにない。
「それ、煽ってるんだよね?」
わかっていることをわざと口に出して、透の同意を求める。
恥ずかしそうにこくんとうなずかれれば、ニヤリと口角があがる。
もっと欲しがってくれないと、オレは不安でたまらないから。
「ヒヒっ、随分と淫乱になったね」
ふうっと耳元で囁くように言えば、びくりと身体が震える。
可愛い。
凄く可愛い。
自分の心の弱い部分を隠して、わざと酷いことを言わないと泣いてしまいそうになる。
「あれ?感じたの?昔からかわんねぇなぁ」
ペロリと舌なめずりをすれば、透の頬が赤く染まる。
あぁ、可愛い、可愛い、可愛い。
昔から変わらない。
思わずペロリと耳を舐めてやれば、可愛い声が小さく漏れる。
「そうだよなぁ?初めてはこんなゴミクズで、あの頃は加減もわかんなかったから色々したもんな。で?耳がこんなに弱くなったのは誰のせいだっけ?」
「んぅ...一松くんのせぃ...」
その問いにゾクゾクと身体が痺れた。
その答えを聴けるのは自分だけだと思えば思うほど、身体中の血液が急かすように下半身に集まる。
ドクンドクンとうるさいぐらい心臓が跳ね上がる。
最後までもつだろうか、なんて...。
血液は生き急ぐみたいに流れて、もうすでに股間が痛いくらい膨らんで透を犯したいと叫ぶ。
どんな綺麗な物語を描こうとしても、結局行き着く先はそこ。
離した手は二度と戻らないなんて事、当たり前のように日常のどこにでも転がっている。
ゴミ以下のボクならなおさらだ。
きっとこれが終わったら、もう会ってなんてもらえない。
ならせめて、透の心の中の数ミリにでも染みをつけたい。
綺麗なだけじゃ染みはつかないなら、どんな汚い言葉を吐いても思ってもない言葉でもいいから透の脳に刻みつける。