第8章 どうか無いものねだりでも
大きいベットなのに2人して真ん中で小さくなって正座をしているから面白い。
沈黙が流れる。
シャワーを浴びる前に音楽が流れているのを消してしまったから、余計にしんと静まりお風呂場の水滴の音がかすかに聞こえた。
こんな事なら安っぽい音楽でもつけたままにしておくべきだったのではと、うつむく。
今さらここまで来て何を話せばよいのかわからない。
そして何より、どうすればよいかもだ。
「...目腫れてるね」
悩んでいたさなか低い声が無音の部屋に響いた。
その声と同時にゆっくりと伸ばされる手は、私の瞼を優しくなでる。
暖かい手が腫れた瞼をゆっくりと温め、眠ってしまいそうなほどに心地いい。
じわりじわりと襲ってくる睡魔は、そうっと私に横になるようにほだしてくる。
泣きすぎたせいか、体力をかなり消耗してしまったんだろう。
ふかふかのベットは本当に心地よくて、このままでも眠ってしまいそう。
ゆらゆらと船を漕ぐ私に、一松くんは困ったような顔をする。
ぼんやりと意識が遠いせいか、おさえられていた欲が素直に出てきてしまう。
眠い、けれど彼が欲しい...。
二つの欲が交差する。
目の前にあった彼の唇にそっと自分の唇を重ねる。
...柔らかい。
寒さでささくれていた一松くんの唇は、シャワーの水分を吸いこんで柔らかくて暖かくて心地いい。
触れるだけのキスだけでじくじくと下半身は疼く。
あぁ、下着をつけたままにしなくてよかった。
ものの数分で汚してしまっていただろうから。
キスの後に一松くんを盗みみれば、顔を真っ赤にして硬直している。
はぁっと深いため息を漏らす様は、昔とかわらずなんて色っぽいんだろう。
「それ、反則じゃない」
漏らす息さえ飲み込んでしまいたい。
一松くんの惚けた顔にゾクゾクと背中から腰にかけて電流のように激しく、それでいて甘い刺激が走る。
無いものねだりだっていい。
私は彼が欲しい。
伸ばす腕で一松くんを抱き寄せた。
この一瞬だけでもいいから、彼に愛されたい。