第8章 どうか無いものねだりでも
〜一松side〜
ベンチのすぐ横に立つ透。
このままさよならしようと思った。
振り向くな、振り向くな、こんなゴミに思われたって今さら迷惑なだけだ。
本を抱きしめながら、この想いをしまう。
どうせなら、もっと自信のある姿で会いたかった。
服装もいつもと変わらないパーカーで、そんな格好で昼間にいたんだからニートってきっとわかるはずだよね。
元彼がこんなふうになってて本当は幻滅したに決まってる。けど透は優しいから言わなかったんだ。
抱き締めた事を後悔しながら、早足にその場を去る。
逃げたい、透から...。
変わってしまった透はとっても綺麗になってて、オレには眩しすぎる。
ぼんやりとしていたせいで忘れてしまった本、それを探しに公園に来た時透をみつけた。
期待していなかったといえば、嘘になると思う。
だからコーヒーなんて買ったんだろう。
透をその場所で見つけた時、本当は死んでしまいたいほど嬉しかった。
すぐそこまで走って抱きしめてしまいたかった。
でも現実のオレはこんなゴミクズだから。
せめて思い出は綺麗なままなんて思って、見守っていた。
透が本を見つけるまでは...。
透からぐんぐん離れていく。
けれど、オレの中でそっと声がする。
1度くらいいんじゃないかって...。
最後の最後に透を見たい。
コツンコツンとヒールの音が闇に響く。
静まり帰っている公園、透の去ってく音がよく耳に届く。
そのひと音ひと音が胸を裂く。
せめて背だけでも...。
女々しくても、それくらい許されるんじゃないかって。
そう思い振り向けば、透と目が合った。
多分オレひどい顔してる。
そんなふうに思っていたら、遠くに咲く笑顔。
笑ってる...?
こんなオレに...?
けれどその笑顔に違和感があって、オレの心がこう叫ぶ。
最後の帰り道でみた透の顔が鮮明によみがえってきた。
笑うその顔が、オレの勘違いかもしれないけどもしそうじゃなかったら、泣いてる。
そう思った瞬間、足が勝手に動く。
泣くなよ、頼むから。
あの帰り道からずっとずっと後悔ばかりで、もうどうしようもなかった。
もう後悔はしたくない。
無いものねだりでもそれでも...。