第8章 どうか無いものねだりでも
もう何度この帰り道を通ったかわからないが、二人で1歩1歩アスファルトの黒い道を歩く。
彼と当然かのようにあう歩調。
それが当たり前だと思っていたが、本当は彼の優しさである事に気づけないほど未熟だった。
私の歩調に合わせられるほど、どれだけ沢山一緒に歩いたのかだなんて、その時の私には考える余裕はなく。
アスファルトの続く道は、色だけは今の私の心によく似ている。
「一松くん」
ポツリ言葉を零す。
彼は何も言わない。
けれど、私の声に静かに耳を傾けているということだけはわかった。
「...私疲れた」
はやし立てる同級生、最初こそ質問だけだったが、そんな小さな物事の1つは加速していじめにかわる時間などあってないようなもの。
ふわりと頭に置かれた手は優しく、まるで自分もだと言いた気な彼は沈みかけの日に照らされ切なげにうつる。
「...無いものねだりなんて、するだけ馬鹿だったのかな」
ポツリと落とすは黒い点、白い用紙に落とすインクのようにじわりじわりと心を黒く染める。
「...それは、オレとこうなった事を後悔してるって事?」
ざあっと抜ける風。
心を見透かしているかのように、二人の間に入ってくるすきま風が冷たい。
「...なら、終わりにする?」
終わり、とはどういう事だろうか。
必死に頭の中で色々と考えてみたが、どんなに考えた所で結末は決まっていた。
「...そう、だね、そんなに好きってわけじゃなかったし、それでこういう事してるの、一松くんに悪い」
その言葉に彼は何も言わなかった。
繋いだ手がするりと離れたかと思えば、すでに家の前にいて彼はどこにもいない。
ぼとりと落としたのは、花の頭か私の心か。
このまま花が腐って朽ちて、虫に食われるくらいならば手が傷だらけになってもその花の頭をもごう。
綺麗なまま、想いが汚れてしまわないうちに...。
それがけじめだと、美しい事だと思っていた私は本当に愚かだと今ならば言えるだろう。