第8章 どうか無いものねだりでも
そこから、なんとなく一緒に帰ることが多くなり。
気づけば手を繋ぎ、気づけばキスをし、身体をかさね、一緒にいるのが当たり前になっていった。
中学生には早いと思うだろうが、純粋な時期だからこそ簡単に溺れてしまったんだろう。
今にして思えば、なんの責任もなかった時代。
ただ純粋に好きという事だけが、全てだった。
その関係を彼は拒まなかったし、私もまた彼の行為を拒む事もなかった。
私は彼に溺れた。
口下手な彼だったが、不思議と一緒にいるといいたいことがわかる。それほどまでに共用した時間は、計り知れなかった。
それでもまだ足りないと費やす時間が、キラキラと過ぎて行く。
彼はさり気ない優しさをたくさんくれる、愛情深い人だった。
素直ではなかったが、そんな所も好きに変わっていく。
私は幸せだった。
けれど、幸せが長くは続かないのがどこの話しでもよくある事だ。
彼と私を結んだ小説のように...。
巡る季節はあっという間で、高校にあがる直前に事は起こる。
「松野と宮野って付き合ってるんだって」
そんな噂が流れはじめた。
教室という名の狭い世界は、ほとんどが集団行動で決まると言っても過言ではない。
他人と同じ身の丈、そうでなくてはならないとう馬鹿な暗黙のルールが全てだ。
私達は、溺れるには早すぎた。
そして、大人しいグループに属する私達はヤンチャなグループにとって格好の的だ。
いつから付き合ってたの?
どこが好きなの?
エッチってもうしたの?
ニヤニヤと笑いながら繰り出される質問は、ゴシップ誌か何かのようだ。
その全てを無視し続け、なんでもないふりをするのは容易な事ではなく。
私の心は確実に枯れていった。
物語に出てくる薔薇のように、確実に...。