第7章 貴方の一番になりたい
いつから好きになったんだろうとか、いつから女としてみてたんだろうとかそういう細かい事は覚えていない。
そういうのってそういうもん。
ただそれが俺の場合は、きっと他の連中よりもずっと早かったんだと思う。
風が木々を揺らしてザワザワと騒ぐ。
風が吹きゃ、木だって揺れる。
音が鳴る、それと同じだ。
意識があった時よりも前からもう好きだったんだと思う。
恋というよりもそれは息をするように、それが当然だったみたいに気づけばもう好きだった。
だからこそ、気づいていたからこそ言ってはいけないということを俺はきちんとわかっていた。
「おそ松兄さん、私...結婚する事にしたの」
木の葉が、風に舞う。
ぐるぐると舞う。
いつか、いつかこんな日が来る事もちゃんとわかってた。
わかってて、それで...いや、だからこそ...。
「...そうか、幸せになれよ?」
ずっと心の準備をしてきた。
ほらだって俺、みんなの兄ちゃんだよ?
長男だしなんて訳のわからないことを心の中で言い含めながら...。
「...おそ松...兄さん...」
それなのに、泣きそうな透の顔が俺の心の準備を意図も簡単に崩してしまいそうで...。
バサりと脱ぎ捨てた赤いジャージを透に被せた。
「花嫁が風邪とかひくなよ?」
ポンと頭に手を乗せてガシガシとジャージごしから撫でる。
なぁ、透?
俺今さ、ちゃんとお兄ちゃんできてる?
「んじゃ、俺先に帰ってるわ」
バイバイと手を振る。
いつもの赤いパーカー、上を見れば同じ色だ。
はしゃぎながら手を繋いで、俺の横をかけてゆく男の子と女の子に昔の自分達が重なる。
あの頃から幼いながらにもう好きで、子どもだったから好きだって簡単に言えたのに。
でも俺達はもう大人だから...。
「待って!待ってよ!おそ松兄さん!私、私おそ松兄さんの事を!」
すぐ後ろに、恋焦がれた女の足音。
いやそれじゃあダメだ。
可愛い妹の足音。
「もう終りにしよう」
始まってもいないこの想いにそっとピリオドをうつ。
きっとそうだなんて言わなくても、俺がお兄ちゃんである為に必要な事。