第7章 貴方の一番になりたい
こんな日だからこそ、駄々をこねる子どもみたいになりたかった。
病室の白いベッドの上で大の字で寝そべり、ぼうっと天井を仰ぐ。
硬めのベットはそんなに寝心地がよくはなくて、それでも妹の結婚式に向かうよりはまだマシだ。
ぶらんと自分の腕を空に預けてみれば、自分の嫌いな白が巻きついていた。
ちなみにただの打撲だ。
入院するほどでもない傷だったけれど、これ幸いみたいな感じでデカパン博士に頼みこんでつくってもらった薬を一つ飲んで仮病を使った。
そしたらどうなったと思う?
飲んだ瞬間、一気に身体の熱があがって胸が苦しくなって、息もできなくなって泡吹いたらしいのよ俺。
さすがはデカパン博士、仮病作戦は大成功。
小学生の時とかにそんな薬が欲しかったなんて、きっと皆だって考えるよな?
でもその薬の名前がこれまた傑作で、確実に小学生のガキが扱えるしろものじゃない。
なんて名前だったと思う?
『相手への想いが熱になる薬』だってさ。
頭に思ってる相手を想うぶんだけ熱があがる薬。
熱くて身まで焦げそうになって、泡までふくとか傑作だよな。
俺、そんなに想ってたのなんて熱が上がりまくる中で考えてた。
やる事が小学生みたい?
大人がやる事じゃない...。
今時二十歳をこえて仮病使って、嫌な事から逃げるだなんて...。
そんな事はわかってたけど、実行しちゃったんだよね。ほら俺、馬鹿だし、これくらいしか思いつかなくて。
でもさ実行したって結局は現実からは逃げらんないんだよな...。
例え一時でも忘れたい事なんて山ほどあるわけで、それを酒に溶かそうが女に甘えようが、仮病を使おうが結局は忘れたりなんてできない。
「...透」
ボソッて呟く名前が、静かな病室にいやに響いて胸が痛い。
せっかく仮病まで使ったのに、嘘までついたのに、こんなんじゃ全然意味無いじゃん。