第7章 貴方の一番になりたい
「ご機嫌いかがかな、ブラザー!」
ガラガラと大きな音とともに真っ赤な薔薇の花束を抱えたサイコパス松が入ってきた。
「うん、帰って」
「ははーん?照れているのかいブラザー?照れてるんだろう?んー?」
「いや、照れてないから帰って」
競馬新聞片手に赤い丸をつけながら、白い病室のベットの上にいる。
正直な話をすっけど、白い病室があんまり好きではなかった。
というよりも、時が経つにつれ嫌いになった。
今日という日を迎えてしまう事が容易に想像できてしまう白。
「見てわかんない?お兄ちゃん今忙しいの?カラ松の相手してる暇ないわけな」
カラ松の方を見ずに競馬新聞だけを見つめる。
おっ、おぐりでっぱがかたいな?
いや、ここは松のブライアンだろうか?
「おそ松、迎えに来たぞ」
せっかくその話題から話をそらす為に競馬新聞を広げてるっていうのに、あっさりとそんなふうにいっちゃうんだもんな。
「黙りか」
いっつもイタいくせにこういう時はイタさ皆無で、面白味の欠けらも無い。
ふいっと明後日の方角を見れば、雲ひとつない青が病室の窓に広がる。
今のカラ松の目と同じ、一点の曇もなくて居心地がいい景色じゃない。
「で?」
「で?ってなんだ?」
少し凄みのある声を出してきて、確実にキレかけてんのがわかる。
「なぁ、おそ松?妹の結婚式だぞ?お前わかってんのか?」
「うるせぇ、帰れ」
俺の一言にグッと拳に力を入れているのがわかる。
重くなる空気、張り詰めてギリギリなカラ松。
「おそ松、俺と行こう」
「行かねえーよ!バッカじゃないの?妹が嫁に行こうがなんだろうが関係ねぇから」
その言葉を放った瞬間、がしゃんとものすごい音が病室に響いて粉々に花瓶が砕け散る。
手を赤く染めて、瞳孔を開くもう1人の自分の顔。
「...そうか」
短めにそう言って、おさまりきらない怒りを身のうちに潜ませているであろうカラ松が病室を出ていく。
その後ろ姿が扉の向こうへ消えるのをぼんやりと見ていた。