第12章 にゃんことわんこ
「…うん。怒ってないわ」
「にゃ〜」
子猫の頭を優しく撫でてやると、眼を細めて気持ち良さそうに鳴く。
彼らとこんなに穏やかな時間を過ごしたのは、幼少期の…いつ以来かしら。もう戻らない日々だとばかり思っていたわ。
「……聞きたいこと、もう一つあるんだけど」
「なに?」
「十四松」
「あのね!、昨日おそ松兄さんとセ○ロスしたの!?」
穏やかな時間、儚く崩れ去る。
「は、はぁぁッ!?してないわよそんなこと!!」
「え、してないの?兄さんご機嫌だったから童貞卒業したのかと思ってた!」
「ご機嫌、って…///」
途端に、昨日おそ松にされたことが次々と甦ってきて、顔がカーッと熱くなる。
「……え、なんで赤くなんの?」
「お、お気になさらず…!それより猫!猫触ろうこねくり回そう!」「こねくり回すってなにそれ怖い」
思い出したくない…ろっ、路地裏であんな…恥ずかしい…!///
「う〜っ///」「あー、猫で顔隠した!」「にゃ〜?」
「…はぁ。十四松」
「!うん、分かった」
顔を隠しながらも、隙間から様子を窺うと、十四松が空き地を出ていくのが見えた。
「へ…?十四松?」
残されたのは私と、一松だけ。
「ジュース買いに行っただけ。すぐ戻ってくるよ」
「あ…そうなんだ」
「……」
な、なんか…気まずい。
彼…一松との最初の再会は、あまりにもインパクトが強すぎた。
猫人間に変身して人んちの窓蹴破って不法侵入よ?現実離れしすぎよ、ファンタジーじゃないんだから。
そんな再会だったせいで、今回のような¨普通のシチュエーション¨では、一体どう接すればいいのか皆目見当もつかない。
ドMで友達いなくてすぐ死のうとする卑屈っぷりと漂う闇のオーラ。…誰か彼のトリセツ作って譲ってくれませんかね?
「…」
「アッハイ」
「…クソ松みたいな返事するなよ。こっち向いて」
クソ松?よく分からないけど…
顔の火照りはだいぶ収まってきたので、素直に彼の方を向く。…と、
彼がだんだんと、私に近付いてきた。