第9章 松野トド松という男
…意識が戻ってくる。
ゆっくりと目を開けると、まず視界に飛び込んできたのは白い天井。
間接照明だけの薄暗い部屋…ここはどこ?私、ベッドに寝かされてる?
「おはよう、ちゃん。具合はどう?」「…え?」
ベッドの端に…トド松くんが座っていた。
…!!!ま、ままま、まさか、こ、こここ、ここって…!!!
「気付いちゃった?そう、ここはホテルだよ。…正確には、ラブホテル、かな?」
「なッ!!」
ちょ、ま、待って?!じゃあ私…!
「っと、暴れないで。まだ僕は君に何もしてないよ。寝込みを襲うのは趣味じゃないんだ」
童貞が何を…じゃなくて!
「一体なんのつもり?!無断でこんな場所に連れ込んで…っていうか私に薬盛ったでしょ?!」
あの異様な眠気と、彼の言葉。確信犯に決まってる!
「ふふ、そうだよ。あの店でさっき僕たちのオーダーを受けた店員さん、実は知り合いなんだよね。事前に連絡して、君の飲み物に睡眠薬をすこーしだけ混ぜてもらったんだよ」
完全に油断していた…!その可能性までは想定していなかったわ!
トド松くんは黒い笑みを浮かべながら、私の上に跨がる。
「だから聞いたでしょ?…そのアップルティー、おいしい?って」
「…ッ!」
彼の頬を引っ張たこうと、右手を振りかぶる。しかし…
「う、動かない…?!」
頬に到達する前に、手が空中でぴたりと静止してしまった。
その様子を見て、トド松くんの笑みが一層深まる。
「ああ、言い忘れてたけど。実は君の飲んだ睡眠薬は博士のお手製でね」
またもやデカパン博士!?もうマジあいつなんなのよ!!
「副作用として、¨人に危害を加えることができない¨効果があるんだ。媚薬効果と迷ったんだけど〜…君、手癖足癖がものすごく悪いって兄さんたちから聞いてたからさ。か弱い僕には到底太刀打ちできなさそうだったから、ちょっとズルしてみたんだよね」
「…ムカつく…!何がか弱いよ、ずる賢さだけは天下一品じゃない…!!」
「あは♪君って本当に人の神経逆撫でするのうまいよねぇ。…どうなっても知らないよ?」