第9章 松野トド松という男
やがて飲み物が運ばれてきた。トド松くんは相変わらず他愛ない世間話をしてくる。
…こうしてるだけなら、彼も普通の男友達っていうか、害のない幼なじみに見えるんだけど。過去の遺恨は凄まじいわ…
「ところで、君はもう僕たちの区別はついた?」
アップルティーをストローでちびちび飲んでいると、彼がそんなことを聞いてくる。
「区別って…うんまぁ、一応ね。昔よりみんな見分けやすくなったわ」
「昔より、か。実は今だから言えるけど、君、昔もちゃんと僕たちの区別はついてたんだよ」
……は?
「え、ど、どういうこと?だって私が名前呼んでも、みんな違うって毎回…」
「だから、僕たちが君に嘘をついてたってことだよ。本当は合ってるのに、『僕じゃない、それあいつだよ』って言って、君を混乱させて楽しんでただけ☆」
13年越しの新事実、思いもよらぬ形で発覚。あれも虐めの1つだったの?!気付くか!
「ど、どこまでも意地が悪いわね、悪童ども…!」
「褒め言葉として受け取ってあげる。…ね、そのアップルティー、おいしい?」
「…へ?う、うん、まぁ」
「それならよかった」
私のより、そっちのタピオカミルクティーの方がおいしそうなんだけど…まぁいっか。
「トド松くん。これ飲んだらどうするの?」
「僕とデートしない?」「却下」「即答だね」
「…みんなが私を好きなのは、この数日でよーく分かったわ。全員どうしようもない変態だってこともね」
「ちょ、僕も含めないでよ!」
なんか反論してるけど、無視無視。
「でも!こっちはそう簡単にみんなを許すことはできないし、気持ちに応えることもできない。それだけはしっかりお伝えしておくわ」
「…ちゃん…」
彼がとても悲しげな表情を浮かべる。それを見て、私の胸が僅かに締め付けられた。
何よ…今さらそんな顔されたって通用しないんだから。