第8章 松野十四松という男
コンビニから拐われて、どれだけの時間が経っただろう?5分?10分?多分それくらい。
「とーちゃーく!!」ズザザザザッ
着いた先は、運動公園でも、河原でもなく…
「…神社…?」
ここ…覚えてる。昔一度だけ6つ子のみんなと来たことがあったな。
「…は!お、下ろして!///」「あい!」ストッ
うー、恥ずかしかった…いやでもあまりに高速すぎて周りには見えてなかったんじゃないかな?だったらいいんだけど。
それより、なんか賑わってるな。出店がたくさん並んでる。
「今日ね!お祭りやってるんだよ!」「なるほど、道理で」
そういえばもうそんな時期かぁ。よく友達と遊びに行ってたっけ。
小規模な祭りだけど神輿も担ぐんだよね。懐かしいな…
「…あれ?十四松くん、野球は?」
「うん、やっぱりいいや!僕ちゃんと屋台巡りしたい!」「えぇっ!」
…もしかして十四松くん、最初からこれが目的だったの?
なら言ってくれればよかったのに。怪しまれると思ったのかな?確かに祭りがあるなんてすっかり忘れてたけど。
嘘つかないって自分で言ってたくせに、結局面接も野球も私の気を引くための単なる口実だったわけね。…うん?いや面接は未だに謎だわ。あのくだりいる?
でも、
ちょっぴり嬉しい…かも。
「…十四松くん、奢ってくれる?」
「え?!」
「私バイト途中で抜け出してきちゃったんだもん。いいよね?」
嬉しいのに、少し意地悪をしてしまう私。6つ子の性格の悪さが移っちゃったのかなぁ。
彼はオロオロとしながらも、やがてこくんと頷いた。
「い、いいッスよ!わたあめなら!」
「わたあめだけ?」
「///〜っり、りんご飴も!飴細工も!」
飴ばかりなのはなんでだろう…と疑問に思ったけれど、なぜか顔を火照らせながら一生懸命答えてくれる彼が可愛らしくて、私は微笑んだ。
…あ、この気持ち。すごく久しぶりかもしれない。
本当に素直に、彼のことを¨愛しい¨と感じた。
かつて、6つ子に優しくされた時に抱いた感情と同じ。
みんなは変わっちゃったけど…私は変わってないみたい。