第35章 チョロ松とハッピーエンド
「ただいまー。…あら」
家に帰ってきたのは、すでに18時を回った頃。玄関を開けると、彼の革靴が規則正しく並んで置いてあった。
やっぱり先に帰ってきてたのね。今日は久々に定時で上がれるって言ってたから当然か。
「チョロ松、おかえりなさ…ぃ…」
リビングに入るなり、ソファーで眠っている彼の姿が目に入り、私は声をすぼめてしまった。
よほど疲れていたのか、潔癖な彼にしては珍しく、辺りにカバンやら上着やらが放り出されており、ネクタイを僅かに緩めたシャツ姿のまま、仰向けで死んだように眠っている。
「…チョロ松…」
私はそっとカバンと上着を拾い上げ、畳んで隅にまとめて置いてから、今度は彼のすぐ傍まで近付いた。
小さく寝息を立てながら眠る彼の肌は真っ白で、目の下のクマも消えていない。それに以前より少し痩せたような気もする。やっぱり心配だな…
起こさないように慎重にネクタイをほどき、シャツのボタンを1つだけ外して首元を楽にする。ソファーにかけてあった毛布を彼に被せると、私は台所に行くために立ち上がった。
…今はゆっくり、休ませてあげよう。
踵を返したその時、ごそごそと身を捩る音がした。
「……?」
気を付けてたつもりなんだけど、起こしちゃったみたいね。
「チョロ松、まだ寝てていいわよ。疲れてるんでしょう?」
「…いや…起きるよ。君が帰ってきてるのに、1人で寝てるわけにはいかないだろ」
そう言って無理やり体を起こそうとする彼を、私は慌てて引き止めた。
「だめ。お願いだからここにいて。横になってるだけでもいいから」
「?どうしたの、そんな辛そうな顔して。僕は平気…「平気じゃない!」…!」
あまりにも鈍感な彼に苛立ってしまい、つい大声を出してしまった私を見て、彼は驚きの表情を浮かべた。
だって、もう限界なんだもの…彼だけが頑張っても、私は嬉しくない。
「チョロ松…やっぱり最近のあなたは頑張りすぎよ」
「……」
「今の時期、特に繁忙期ってわけでもないでしょ?なのに残業ばかりで、たまに早出もするし、夜は寝る時間を削ってまで何かしてるし…私、あなたがいつか倒れてしまうんじゃないかって、心配で仕方ないの。…だから、お願い。理由があるなら教えて」