第28章 嘘と本音は紙一重【一松】
思い切り肩を跳ね上げて驚く彼。こちらを振り向いたその表情には、まるで世紀末でもやってきたかのような絶望が滲んでいた。
「………見てたの?」「はい?」「今の、見てた?」「え…う、うん」「…………」
彼はゆらりと立ち上がり、どこからともなく太い縄を取り出すと、それを輪にして自らの首にかけた。
「…よし、死のう」Σ「ちょ!?早まらないで!!というかその縄どこにも繋がってないから!首吊りたくても吊れないから!」「大丈夫…猫たちが引っ張ってくれる…」「それただの街中引き摺りの刑よね?!」
必死に説得(正しくはツッコミ)をしつつ、なんとか縄の奪取に成功。今のって死ぬほど恥ずかしいことなの?猫人間になったりするのに?彼の判断基準がよく分からないわ!
「……ねぇ、何しに来たの?」「今さら?!」
おまけに冷静になるの早すぎ…これじゃ私が振り回されてるだけみたいじゃない…
「…!そいつ…」
彼の視線が、私の胸元に留まる。ずっと抱きかかえたままだった子猫が、彼に向かって小さく鳴いた。
「にゃ〜」
「ああ、この子ね。昨夜拾って成り行きで一晩お世話したんだけど、うちのアパートがペット禁止で悩んでるの。それで、あなたに助けてもらいたくて」
「…どこにいたの?」
「それが、なぜか私の部屋の玄関前に…拾ってくださいって書いてある段ボール箱に入ってたわ」
「……ふぅん。ちょっと貸して」「?うん」
彼に子猫を手渡すと、そのまま路地裏の奥に歩いていくので、私もついていくと…
そこには、少し毛色の違う野良猫が1匹。子猫とよく似ている気がした。
…もしかして。
「にゃー!にゃー!」
「…やっと見つかったな。もう手離すなよ」「にゃあ〜!」
彼の腕から勢いよく飛び下りた子猫は、自分より大きなその野良猫に嬉しそうに擦り寄った。
ああ、やっぱり。
「親子なのね」
「…うん。ずっと探してたんだけど、まさかが連れてくるなんてね」