第26章 誘惑に負ける男【チョロ松】
待ち合わせの駅前広場に到着。時間は10分前。ちょっと早すぎたわね。
あまり張り切りすぎても引かれそうだから、私服の中でもわりと普通のコーディネートにしてみたけど…うーん、もう少し可愛いのでもよかったかもしれない。これじゃせいぜい女友達と遊ぶレベルよね。
チョロ松はどんな格好してくるのかな。前のスーツ姿は彼にしてはかっこよかったけど、あれは面接用だったんだし今回はないとして…ライブの時のオタファッションだけは避けてほしいわ、頼む…
「…あれ?」
ふと視界の端に、見慣れた髪型の男性が映り込む。顔を向けると、水色のスーツを着てネクタイをきっちり締めた¨彼¨が、まるでロボットのようにカチコチな動きで歩きながら、こちらに向かってきていた。
ちょ、え、待って?彼よね?チョロ松よね?
人混みのせいもあり、まだ私には気付いていないみたいだけど、着実にこちらに向かってきている。
緊張しているのが丸わかりすぎて逆に痛々しい!手と足同時に動いてるし、顔真っ赤だし!それに何よりスーツ!なんでデートにスーツ?!面接用ではないみたいだけど、もしかして勝負服的なあれ?!めちゃくちゃ張り切ってるじゃない!引かれるかもとか思った私が恥ずかしくなるくらい張り切ってるじゃない!!
彼は依然として私に気付かぬまま、近くのベンチに腰を下ろした。そこで一息つくと、持っていたカバンから何やらガイドブック?のようなものを取り出し、目をカッ!と見開いて高速でページをめくり始める。
パラパラパラパラ…「…えーと、まずはランチだったよねこの辺りで女性ウケしそうなお店っていったら…」パラパラパラパラ…
な、なんかぶつぶつ呟いてるぅ!?見開きすぎて目充血してるぅ!?
「落ち着けチョロ松…デートなんてただの建前なんだから…彼女はたまたま僕を誘ってくれただけなんだから…でも期待には応えなきゃ…ここでポイントアップしておかないと特に上二人のクズ兄貴どもに横取りされるからね…例え人生初デートだろうと持てる力を全て出しきって彼女を満足させなければ…それでえーと、昼食の次はここに行って、次にここ、夜は夜景の綺麗な場所に連れていってからの…」ぶつぶつぶつぶつ…
チョロ松ライジングしまくってるんだけど!?怖い!!