第22章 恋慕と嫉妬【チョロ松】※
信号が青に変わる。一歩進むたびに近付く距離。だんだんと驚きは確信に変わっていき、すれ違いざま私は¨彼¨の腕を掴んだ。
「チョロ松!あなた、チョロ松よね?」「…!」
見慣れないスーツ姿ではあるけど、間違いない。チョロ松だ。
彼はばつが悪そうに表情を歪めたけれど、それは一瞬で、私と顔を合わせてくれた時にはいつものように優しげに微笑んでいた。
「う、うん、偶然だねちゃん。…とりあえず危ないから、横断歩道は渡っちゃおうか」「あ!そ、そうね」
私は来た道を引き返し、安全な場所まで戻る。改めて、彼の姿をじっと眺めた。
「えーと…ど、どうしたの?」
「チョロ松、なんでスーツなんか着てるの?」
「あー…い、言わなきゃだめかなぁ…?」
むしろ言いたくない理由でもあるのかしら?さっきからおどおどしてるし。
「無理にとは言わないけど、気にはなるわね」
普段はお揃いのパーカーだったり、オタファッションだったりな彼のイメージからはかけ離れた、きっちり着こなされたスーツ姿。サラリーマンが持ってそうなカバンまである。端から見れば仕事帰りよね、完全に。そんなわけはないはずだけど、だってニートだし。
ということは、もしかして。
「就活?面接でも行ってきたの?」
Σ「ぎくっ!」「ぎくっ!って声に出しちゃってるわよ」「え!?」
本当に、チョロ松だけは就職する意欲があるのね。せいぜいハロワ通いで、実行には移さないと思ってたから意外。
「すごいわ、チョロ松。手応えはあったの?」
「…あったら、もっと嬉しそうにしてるよ。はぁ、社会って厳しいよね…」
大きく肩を落とす彼を見て、私は後悔する。しまった、余計なことを聞きすぎたかも。
「ご、ごめんなさい!落とされたとは思わなくて!」
「いや、勝手に落とさないでよ…結果が出るのはまだ先だから…」
「!そ、そうよね、ドンマイ!」「君、励ますの下手だね…」
ど、どうしよう。こんなに暗く沈んだチョロ松、初めて見たわ。でも私に慰めスキルなんて備わってないし…あ、そうだ!