第22章 恋慕と嫉妬【チョロ松】※
「ありがとうございましたー!」
うん、腹から声出せてる。だるさとかもないし、笑顔もばっちりなはず。ちゃんと仕事できてるわ。
こうして何かに集中してれば、6つ子のことは大抵忘れられる。後は運悪く誰か来ないことを祈るのみ。
私はレジをもう一人に任せ、商品補充に取りかかる。
お昼まだ食べてないから、お腹減ってきたなぁ…あ、このおにぎりおいしそう。新作ってそそられるわよね。
おにぎり、かぁ。そういえば小学生の頃、お母さんと一緒に作ってみんなに…
は!また6つ子との思い出を振り返りそうに!今は仕事に集中だってば…!
***
ガチャ「お先に失礼しまーす」パタン
結局、あまり集中できなかった…思い出したくなくても勝手に思い出すんだもの…
ほとんどが虐められてた辛い思い出だけど、だからこそ強いインパクトがあってなかなか忘れられないのよね。本気で死にかけたこともあったし、まさに私の幼少期は毎日がデッドオアアライブだったわ…
それに比べれば、現在のなんと平和なこと。まぁ、彼らに復讐を果たしたら早々に行方を眩ますつもりだった当初の計画からすれば、平和というのもどこかおかしいわね。
別の意味で大変なのは事実だし、これが子供と大人の差なのかしら。だとしたら大人の方が質が悪い。
散々振り回されて、でも優しくされて愛されて。飴と鞭の両方を与えられてしまっては、私は惑うばかりでどうすることもできない。
仕事を終えて一人になると、余計に彼らのことを考えてしまう。今日も誰かに会うのかな。今朝の夢は、その暗示だったり?
もしそうなら、これから会う人はかくれんぼの時に私を探しに来てくれた人…とかだったら少しは運命的なものを感じるんだけど、あいにく私は少女マンガより少年マンガ派。ロマンスなんかくそくらえよ。
この年になって、今さらそんなものでときめかないわ。ときめくはず…ないのよ。た、多分。
「はぁ…」
大きなため息をつく。交差点に差し掛かり、信号が赤だったために足を止めた。
そして、
反対側で同じく信号待ちをしている、スーツ姿の男性と目が合う。
…え?あの人、どこかで。