第4章 松野おそ松という男
不本意ながらもリビングに通し(というか勝手にずかずか入り込んでたけど)、「ここにいて」と命令してから台所に向かう。
嫌いな相手にもお茶は出しますとも、ええ。ただし飲み終わったら即帰らせる!
…まぁ…虐められてたとはいえ、一応幼なじみってやつだしね。
「はい、どうぞ!」
テーブルの前に大人しく座っていた彼に、怒りを込めてお茶の入ったグラスを突き付ける。あ、しまったちょっと溢れたかな?まぁいいや。
「……どーも。これ毒入り?」「ご所望のところ申し訳ありませんがさすがに毒までは持ち合わせておりませんので!」「あ、そう」
彼は確認するだけ確認して、お茶を一気飲みする。早!
「はい、お茶飲みましたね!というわけでお引き取りください!」
「え、飲んだら帰んなきゃなんないの?俺そんなルール聞いてないよ?」
「言ってませんから」
「あー待って待って。拡声器はあげるからさ、俺の話聞いてよ」
「興味ないです」
「ちゃん」
「…っ!」
いきなり真面目な声で名前を呼ばれ、びくっと全身が強張った。
そしてその隙を、彼が見逃すはずもなく。
「よっ、と!」ドサッ「きゃあ!?」
出遅れた私は彼に押し倒され、あっという間に床に組敷かれてしまった。
「なっ、何するの!」
「色気チェック?」
「意味分かんないから…っ離して!」
全力で逃れようとするも、押さえ付けられた両腕はびくともしない。足も同じく。
さすがは一応大人の男…力強すぎて敵わないよ…!
「なぁちゃん。俺が誰か分かる?」
「え…」
「さっきから全然名前呼んでくれねぇからさぁ。もしかして忘れちゃったの?」
「…ち、違う…名前と顔が一致しないだけ…」
「あー、なるほど。君昔俺らのこと間違えまくってたもんな!」
そりゃあんな無個性集団の区別なんてつきませんよ!幼なじみといえど仲がよかったわけじゃないし!
「じゃ、勘でいいよ。俺は誰だと思う?間違っても怒んねぇからさ」
「…そ、そんなこと、言われても…」
さっきから、なんなの…?
ただでさえ組敷かれて見下ろされて、距離が近くてドキドキが止まらないのに…!
…ん?ドキドキ?なぜに?