第15章 狼と眠り姫【カラ松】※
「…ねぇ、どこに行くの?」
松野家を出てから、十数分。街中をずんずん進んでいく彼に、戸惑いながらも尋ねてみた。
「二人きりで話をしたいって意味なのよね?だったら近くのカフェにでも入ればいいじゃない」
そう提案するも、彼の反応はない。ただ私の手を固く握り締めながら、前へと進むだけ。
歩くのが速くて、時々躓きそうになる。常に前を歩かれているせいで、彼の表情は窺い知れない。
怒ってる…わけではなさそうだけど…男の人ってよく分からないわ。
とにかくこのままじゃいずれ転んじゃいそうだから、歩く速度だけでも緩めてもらわないと。
「カラ松、もう少しゆっくり…きゃっ」
最後まで言い終わる前に、タイミング悪く足が縺れてバランスを崩してしまった。
「!」
けれど倒れそうになる直前、彼がこちらを振り返って素早く私を抱き止めてくれた。
「…大丈夫か?」
「///あ…う、うん」
なんだ…ちゃんと気にかけてはくれているのね。
「すまない、俺のせいだな。ゆっくり歩こう」
「…ふふ」
「?どうかしたか?」
「ううん…やっぱりあなたは優しいんだなと思って」
褒めたつもりだった。
…でもその瞬間、彼の纏う空気が変わった。
「…優しい、か」
「カラ松…?」
明らかに様子がおかしい。そう、これは…彼に路地裏で迫られたあの時と同じだ。
しかし、危険を察知して逃げ出すよりも早く、私は側にあった建物の外壁に強く押さえ付けられて身動きができなくなってしまった。
「な…!カラ松、離して!」
両手も拘束され、足も間に挟まれて動かせない。通行人は皆、よくある痴話喧嘩だとでも誤解しているのか、こちらに目もくれず通り過ぎてゆく。
「…なぁ、。俺は君が思うほど、優しい男じゃない。勘違いをされてもらっては困る」
「な、何を…」
助けて、と叫べばいいのに、次第に声が出なくなっていく。至近距離で見つめてくる彼の瞳の奥にギラギラとした獰猛な光が宿っていて、その恐怖で体が震えた。
「君の言う通りだ。俺に兄貴を責める資格はない。…どれだけ頭ではいけないことと分かっていても、結局君の前では抑えが効かなくなって暴走する。…こんな風にな」