第9章 8 Melody.〜天side〜
「……」
その日の夜。
ボクは家の自室で、何もせずただ椅子に座っていた。
普段はさっさとシャワーを浴びて食事にして、仕事の準備やスケジュール確認をするのに……今日はなかなか力が入らない。
頭の中で、楽と龍の声が交互に響いているせいだ。
〝ああ、会った〟
〝ちゃんと話してきたよ。でも彼女なら大丈夫だ〟
〝追い風にしてみせるって言ってたぜ〟
〝結構ハートが強い子だよね〟
〝つーか天、お前あいつと幼馴染なんだってな〟
〝驚いたよ、あんな可愛い幼馴染がいたなんて〟
ボクと彼女が幼馴染だってバレた。
けどそれは、2人が小鳥遊事務所の寮に行った時点でもう遅い。
あそこには陸がいるから。
それよりも……楽の「ああ、会った」が何度も繰り返し聞こえてきて苛立つ。
(ボクだけ……)
Re:valeは明日彼女と会う約束がされている。
IDOLiSH7はと同じ事務所なんだから当然。
それに加えて楽と龍。
会えてないのはボクだけ。
そう、ボクだけ……。
「っ……!」
怒り、悲しみ、苦しみ、辛さ、悔しさ、虚しさ。
自分の身体を痛めつけるのは、アイドルとしてやってはいけない事だってわかってる。
アザが出来る可能性があるから。
けどボクには吐き出す場所がない。
こうするしかないって……ありったけの力を込めて目の前にあるテーブルに拳を叩きつけた。
すると当たり前のように痛みが手に伝わり、やがて熱を持ち始める。
(キミのせいで頭がおかしくなる……どうしてくれるの……っ)