第4章 3 Melody.
(か、歌詞が可愛すぎる……)
「うーん……わっ!」
「おっと……何やってるんですかあなたは」
(一織くんっ……?)
「ごっ……ごめんなさ……っ」
あの後紙とテープを渡された私は歌詞を見ながら廊下を歩いていた。
そこへ仕事から戻ってきた一織くんとぶつかり、その反動で紙が床に落ちる。
この事務所にいる人はもう怖くないと思ったのに、あのおじさんにもこんな感じでぶつかったよなと考えると……身体が震えて止まらない。
「前を見ないで歩くからですよ」
「っ……ごめっ……」
「……泣いてるんですか?」
「っ……」
(ごめんなさいっ……)
「大丈夫ですよ。私は何もしません」
まだ怖がっているんですか?
そろそろ克服してください。
って叱られるかと思った。
一織くんは結構ズバズバ言う人だから。
でもそんな予想は外れ、彼は優しげな声で私に微笑みかけてくれた。
いつも難しい顔ばかりしているからか……笑うとなんだか可愛い。
「っ……何見てるんですか」
「えっ……あ、ごめんなさい……可愛いなってつい……」
「可愛いってなんですか!私は男ですよ!」
「うん……知ってるよ……?」
「そういうのはあなたみたいな人に言う言葉です!」
「わ、私……?」
「っ……何でもありません!震えがおさまったようなので私はもう行きますよ!」
「あっ……一織くん……!」
途中から一織くんの顔は真っ赤で……年下らしいあどけなさを見た。
彼も普通の高校生なんだなとちょっと安心。
まああの笑みは狙ってやったんじゃないってわかってるけど……現に身体の震えが止まっているのは確かだ。
一織くんに感謝しなきゃ。
「ありがとう、一織くん……」