第4章 3 Melody.
〝ねぇねぇキミ、アイドルやってみない?〟
そう社長さんから声をかけてもらったのは、丁度田舎から東京に戻ってきた日。
最初は全然信じられなくて、私は何回もお断りをしていた。
でも社長さんは諦めず、ぴったりとくっついて回ってきたんだ。
こっちが「あなたは本当に芸能事務所の方なんですか……?」と言えば名刺を差し出し
「いきなりやってみない?と言われても頭がついていきません……」と言えば「じゃあそこのお店で話しよう」
結局喫茶店に連れて行かれ、そこで「私には無理です……」と言っても「まあまあ、そう決めつけないで」と返してきたし
無理だと思う理由を、周囲の目を気にしつつ泣きながら話せば「大丈夫だよ。僕がサポートするから」と言ってきた。
これは逃げ出せない。どうしよう。
そう思いながら困っていた時、丁度お店にあったテレビがCMを映し出していて……そこにTRIGGERが出ていたんだ。
天の姿を見た瞬間に胸が締め付けられて……「あの時はごめんなさい……。もう二度と手の届かない存在になっちゃった……」って辛くなった。
けどもし社長さんの話を受けたら、いつか天と会えるかもしれない。
何年かかっても、自分がアイドルとして上までのぼれば再会出来るかもしれない。
初めは「絶対無理、私には向いてないし怖い」って考えばかりが頭を埋め尽くしていたけど、どうせ社長さんから逃げられないのなら……この理由でもいいのなら……私、アイドルをやってみようって思った。
「どうかなー。キミには素質があると思うんだけど」
「……わかりました」
「えっ?本当?」
「は、はい。色々迷惑をかけるかと思いますが……」
「うんうん!いやーよかった!キミなら頷いてくれると思ってたんだよ」
だから話を良い方に終わらせて、こうして小鳥遊事務所が所有する寮に今居るんだ。
でもよく考えたら、私には天に会う資格はない。
いきなり消えといてまたいきなり現れるなんて……彼にとったらふざけるなだろう。
まだ初日なのに……早くも先が見えなくなってきた。