第32章 31 Melody.〜天side〜
今回はリップのCMで【キスしたくなるくらい潤う】がキャッチコピー。
そこで構成の中に、リップを塗った指先での唇をなぞるシーンがあるのだが……
ボクの胸はやる前から既にうるさい。
(どれだけ練習したの、その表情……)
開始前に言った「誘って」は、ボクからの最後のアドバイスだった。
そういう気持ちで挑めば、終始色気を出していけるだろうと思って。
けどそんなアドバイス、いらなかったかもしれない。
今が見せている表情は凄く自然で……思わず騒つく程セクシーだ。
(本気でキスしたくなる……)
セリフは後入れだから今回は喋らない。
だから無言でと向き合って、指先を近づけていく。
柔らかい……。
今にも吐息が聞こえそう。
カメラが回っているというのに……身体の奥に感じる熱がどんどん大きくなってくる。
(……)
最後は顔を近付ける所で終了。
そのまま重ね合わせたい勢いだけど……監督の「カット!」と言う声でボクは我に返った。
何考えてるの。
今は仕事中でしょう。
周りは「雰囲気出てて凄く良かったよ!」なんて絶賛してる。
けどボクは、それを聞いてもあまり嬉しくなかった。
こんなにもにハマっている自分が情けなくて。
(仕事にまで持ち込むなんてね……)