第32章 31 Melody.〜天side〜
「っ……」
(かっこ悪い……)
逃げてしまった。
呼び止めていたのを知っていながら、あからさまにを避けてしまった。
あのままずっと居たら……彼女に八つ当たりしてしまいそうで怖かったんだ。
「ちょっと天!私が言った事もう忘れたの?!撮影以外であの子に近づくなって言ったじゃない!」
(いつからこんなに嫉妬深くなったの……)
「聞いてるの?!」
「……はい」
「んもう!次やったら承知しないわよ!」
なんだか心に風穴が開いたような感覚だ。
逃げてきたばかりのくせに、どうしようもなくを欲している自分がいる。
もっと良い顔を見せて。
ボクの事もドキドキさせて。
……他なんていいでしょう。
ねぇ……ボクだけを夢中にさせてよ……。
表では決して表せないこの気持ちは……ボクの中で少しずつ闇に変わっていく。
「それじゃあ撮影入りまーす!スタンバイお願いしまーす!」
「天、いってらっしゃい」
「……はい」
それぞれマネージャーの元を離れ、セットの中へと足を踏み入れるとボク。
ちょっとだけ不安そうにしていたけど、位置についた途端に彼女の顔付きは真剣なものへと変わった。
でもそれはボクも同じ。
仕事は仕事できちんと線引きをする。
「……さん」
「えっ……?」
「ボクを誘って」