第32章 31 Melody.〜天side〜
「お疲れ様ですさん!やはりあなたはやれば出来る人なんですよ!」
「ありがとうございますマネージャー……!」
「早く放送開始してほしいですね!観たらきっと、世の中の男性陣はウズウズするはずですから!」
「えっ、ウズウズ……?!」
「そうです!ウズウズです!」
撮影後、またもや目にした2人の仲良い光景。
自分自身に対する苛立ちを更に増幅させる嫌な場面だ。
そんなとこ見たくないのに……見ていたら益々機嫌が悪くなるってわかってるのに……
目が離せないのは何故だろう……。
「てーんー、お疲れ様。すっごく良かったわよー!」
(……大体どうして下の名前で呼ぶの)
「ちょっと天、聞いてるの?」
(……に近寄らないで)
「天!」
もう姉鷺さんの声なんて耳に入らない。
ウズウズって、本当は自分の事言ってるんじゃない?
そんなに顔を輝かせて一体どういうつもり?
キミとはビジネスパートナーでしょう。
立場を考えて。
そう心で訴えるものの、直接言ってないんだから当然彼には届かない。
(っ……ボクも同じ……)
けどそれは自分にも言えるようなものだった。
を彼女にした時点で、もうプロ失格なんだ。
撮影中に疼いて……キスしたくなって……
立場なんか無視して……ライバル事務所のアイドルと付き合ってるボクなんかを、ファンが支持するわけがない。
(けど……ねぇ……好きだよ……っ)
しかし本当の気持ちは誤魔化せない。
「好き」を「嫌い」という言葉で抑えつけたくない。
だからこそ、今更浮上した【立場】という壁がボクの前で嘲笑うかのように見下ろしてくる。
〝九条天、お前はこの先何を優先する?〟
〝アイドルとしての自分か?〟
〝それとも––––〟
〝愛する女か?〟