第30章 29 Melody.〜天side〜
(……今のはキミが悪い)
「あ……んっ……」
もしかして誘ってる?
そうとしか思えない発言だった。
ただでさえ我慢していたというのに……「ずっとこうしてたい」なんて可愛い事を言われたらキスくらいしてしまう。
「っ……」
(……潤まないで。また抱きたくなる)
「けど帰らなきゃダメでしょう」
「うんっ……」
「送ってあげる」
なんとも微妙な雰囲気。
着替えを手伝う間、ボクもも黙ったままだった。
離れたくない。
離したくない。
帰りたくない。
帰したくない。
この沈黙がお互いの思ってる事を教え合ってるみたいだ。
(っ……引き止めるわけにはいかないでしょう)
「準備はいい?」
「……うん」
「行くよ」
ボクの少し後ろを歩く。
その足取りは重いし、おまけに鼻をすする音がする。
心配になって並んで歩いてみたけど……それでもは俯いたまま、自分で涙を拭い続けている。
(機会はまたある。いつか必ずね……)
笑ってくれるまで側に置いておきたい。
抱きしめながら頭を撫でて……いつまでも隣に置いておきたい。
と、本心じゃこう思う。
でもそうもいかない。
ボク達はそこら辺にいる普通のカップルとはわけが違うんだ。
(今だけこうしてあげる。だから泣かないで……)
玄関まであと少し。
扉を抜けたら……もう触れ合えない。
だったらせめて今だけでも……
数十メートルの間だけでも……
手を繋いでいよう……。