第26章 25 Melody.
九条鷹匡。
それは初めて耳にした名前。
どんな背丈で
どんな顔付きで
どんな声で
どんな性格をしている人なのか……私には何もわからない。
なのにいきなりそんな名前を出されて、しかも養父だと天は言う。
正直ついていけない……。
「養父って事は……つ、つまり……」
(天はもう七瀬家の人間じゃないの……?)
「……そう。ボクはもう陸と同じ性を名乗れない」
「っ……」
「ボクは九条さんの養子。……だから九条天」
芸名……その可能性を諦めたくなかった。
何かと陸との関係を知られないようにしていた節があったし、芸能界は色々と闇が潜んでそうな世界だから……バレたら仕事に支障が出るとかで、どちらかが苗字を変える必要があったんじゃないかって。
でも違う。
天はハッキリと〝養子〟と言った。
どうしてそうなったのかも、半分放心状態の私に向かって説明してくる。
(私がいない間にそんな……)
「……オレは今でもあいつが憎いよ。……っ、あいつが来なければっ……天にぃは今でも七瀬天だったんだ!!」
「っ……」
(そうだよね……っ)
「天にぃがいくら九条を慕ってても、オレは一生許さない……っ」
(陸っ……)
悔しそうに拳を作る陸。
その手は震えていて……怒りがひしひしと伝わってくる。
私も九条って人に対しては、天の話を聞いてもあまり良い印象を持てなかった。
寧ろあんなに仲良しだったこの2人を引き裂いた張本人としか思えない。
……でも天は「後悔はしてない」って。
「ボクはこれからも九条天として生きていく」って。
なんだかとてもやるせなくて……暫く2人の顔を見る事が出来なかった……。