第2章 1 Melody.
「あれは6年前……私が陸達の家に向かってた時に起きました……」
(早く会いたいなぁ……!急ごう!)
当時13歳。
陸が一時退院の許可を貰ったと聞いて、私は彼の大好きなドーナツを抱えながら歩いていた。
天もいるからって子供なりにおしゃれをして。
いつもはあまり着ないワンピース。
髪はサイドを編み込み。
陸の一時退院で家に行くのにおかしいかもしれないけど、ちょっとでも天に可愛いと思われたかったから。
(あ、でも走ったら髪が崩れそう……)
もう完全に恋する乙女だった。
「可愛い」って天が言ってくれるのを勝手に想像しては照れたり。
だって言われたいでしょ?好きな人からは特に。
聞くと嬉しくなってドキドキして……まるで魔法にかかったみたいになる。
(言ってくれるといいな……)
道の途中で身なりを整えては歩き、整えては歩き……
そう繰り返しているうちに、約束の時間ギリギリになってしまった。
でも恋をしていると何もかもが楽しく感じる。
時間が押してても、急がなきゃって髪を押さえながら小走りになるのも……全部。
(もう少しだ……!陸、どんな感じかな)
「きゃっ……!」
「おっと……」
「あ……すみません!ぶつかってしまって……」
「いやいいけど……へぇ……」
(な、何……?)
けどウキウキな気分はここまでだった。
ぶつかってしまったこの人は中年のおじさんくらいで……私を舐めるように見ながらニヤニヤする。
なんだか気持ち悪くなった私は、もう一度頭を下げてからこの場を立ち去ろうとした。
でも……
「待ってよ……」
「はっ、離してください……!」
「そう急がなくていいだろう……?ちょっとおじさんに付き合ってよ……」
(えっ……連れて行かれる……!)
「イヤっ……!」
おじさんは私を行かせてはくれなかったーー。