第11章 10 Melody.〜天side〜
楽を縛るだなんて、そんな気色悪い趣味はない。
ただ抱えているモヤモヤをぶつけただけだ。
でも彼は本気だと受け取ったみたいで……何度もボクに「ふざけんな!」と言ってくる。
「うるさい」
「お前があんな事言わなきゃ騒がねぇよ!」
「……静かにしないと縛る代わりに正座させるよ」
「っ……」
「そっちのが嫌なんだな、楽は……」
正座はつまり説教の意味。
楽が素直に正座した事なんて一回もないけど、一度始まるとなかなか終わらないって知ってるからか直ぐに黙った。
これじゃどっちが大人なんだかわからない。
「……で、今日は何スタジオだ?」
「Aスタって聞いたよ。こっちだ」
「あいつ、緊張で上がってなきゃいいけどな」
「そうだね。でも大丈夫だよ」
そう話す楽と龍の後ろを歩くボクの足取りは重い。
「早く顔が見たい」という思いと「嫌な顔をされるのが怖い」という思いが激しく交差している。
当然相手は仕事をしに来ているのだから、プロとして「ヘマしてたら許さない」とも思うけど。
「って、もう始まってんじゃねぇか」
「そっと入ろう……!そっと……」
(……泥棒みたい)
「曲が始まったらどうするの。早く開けて」
「あ、ああそうだよな……ごめん」
の声が聞きたい。
の顔が見たい。
に会いたい……。
そう思い続けながら過ごしたこの6年間は……暗くて寒くて、辛くて痛くて……とにかくしんどかった。
けどようやく……ようやく願いが叶う。
「ほら、2人共入って」
(彼女の声が聞こえる……)
「……」
「おい天、何やってんだよ」
(直ぐそこに居る……っ)
「……っ」
「天……どうしたんだ……?」
「っ……」
(やっとキミに会えた……)
「……っ」