• テキストサイズ

夜明け

第5章 雨催い



「あの、ありがたいのですが…、その、」

 前田は俺が持っているご飯をちらりと見て、小さな声で言った。いらない、と言いたいらしい。鶴丸はそら見ろとでも言いたげだ。

「………君たちのような神様が、食事をとらなくても何ら影響ないことは知ってるよ」

 俺は一度お盆をおき、前田の部屋に置かれている机に器をおいていく。器からは湯気が立ち上り、出汁のいい香りが部屋を包んだ。

「それでも、食べてほしいんだ」

 温かく、おいしい食事はただ腹を満たすだけではない。
 前田が、視線を食事に移す。彩の考えられたそれは、食べる人を思って作られていることが一目で分かる。 

「歌仙が、きみのために作ってくれたよ」

 もう一押しとばかりに、用意していた言葉を口にする。鶴丸はめずらしく口を出さずに事の成り行きを見守っていた。

 それから。

「骨喰が、手伝っていたよ」

 その言葉を聞いて、前田の瞳が大きく揺らぐ。唇が小さく動いた。音にはならずとも、彼が骨喰の名を口にしたことは分かる。
 きっと今、前田の頭の中は色んな感情が吹き荒れているのだろう。自分のせいで。その言葉がずっと張り付いて、前田の罪の意識を膨張させている。前田のせいだなんて、そんなこと、あるはずもないのに。

/ 142ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp