第7章 晨星落落
歌仙は今ならばと、僅かに下を向きながら尋ねる。
「どうして、」
「ずっと、後悔していたよ。お前達にしたこと」
亡霊ーー彼らの主だった者は、歌仙の言葉に被せるようにして、己の胸の内を吐露した。
「何も見えなくなってしまった。愚かな主で済まなかった」
それは、心からの謝罪であった。主だった者は歌仙の瞳を見つめて、それから、歌仙の後ろに見える刀剣男士を順番に見つめた。
顔を背ける者、何を今更と睨むもの、戸惑うもの、反応は様々だった。それすらも全て受け入れながら、主だった亡霊は言葉を続ける。
「お前たちに、俺はたくさんもらったのに。それさえ見失ってしまっていたんだ。最後の瞬間、今剣の泣き顔を見てようやく、思い出したんだ」
そう言うと、その瞳は今剣を映し出す。亡霊は困ったように笑った。
「あぁ、そう。今とおんなじ顔で泣いてたなぁ」
亡霊の言葉に、審神者は横に目を向ける。そこには確かに、大きな赤い瞳からぼたぼたと涙をこぼす今剣がいた。泣きすぎてなのか、我慢しようとするからなのか、鼻先が赤くなり肩は上下に揺れていた。
「こんな俺を、お前たちはずっと愛してくれていたこと。気づけなかった俺を、どうか、どうか、ーーーーー許すことなんてせずに、一生恨んでいてくれ」」
亡霊は、ゆっくりと刀剣男士たちを見つめる。そこに並ぶ刀の数に、顔を歪め、息を殺す。その姿があまりに痛ましく健気で、歌仙の胸は掴まれたように痛む。
「辛い思いばかりさせて、本当にすまない」
亡霊からでた謝罪は本心なのだろう。その体は少しずつ透けていく。それは、この世への未練が少しずつなくなっていっていることを意味していた。
「許すわけないだろう。一生、君を恨むよ」
歌仙は力強く答える。そして、再び亡霊の体を強く、強く、抱きしめた。
「でも、それと同じくらい、君と過ごした日々がかけがえのないものだったってこと、ちゃんと知っておいてくれ」
それは、あの日伝えられなかった言葉たち。歌仙をずっと縛り付けていた後悔と、呪い。亡霊は驚いたように目を見開いた後、嬉しそうに笑った。
「はは、やっぱり、歌仙は優しいなぁ」
その言葉は主が歌仙によく言っていた言葉だった。
そしてついに、亡霊は光となり消える。歌仙の抱きしめていた腕の中には、光の粒だけがあった。