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夜明け

第1章 暁闇



「さて、人間よ」

 呼びかけられて、思考の海からとびだす。顔を向ければ、ただただ美しいばかりの男がいた。

「俺はともかく、ここにいるほとんどの刀剣は傷つき、疲弊している」

 宵闇の紺を切り取ったみたいな男だった。瞳には打ちのけの三日月。三日月宗近だ。彼の言う通り、彼自身の目に見える傷は少ないように見えた。ほとんど無傷と言っていい。

「俺たちは人に作れた。故に、人を愛する心を持っている。だが、それさえ煩わしいと思うほどには人が憎い。幾度も裏切られては、人を信じろという方が難しい。そうは思わぬか?」

 三日月宗近の声や口調は柔らかかった。まるで幼児に話しかけるような口調は、優しさを勘違いしてしまいそうになる。しかし、俺を見る瞳はひどく冷たい。神格も高い。気を許せば、取り込まれそうだ。

「だから、保険が欲しいのだ。俺たちが傷つくことなく、過ごせる保険が。ただの口約束では信じれぬ。それはそちらとて同じであろう。」

 うっそりと細められる瞳は、確かに人間離れした美しさである。つらつらと並べられる言葉に、納得せざるを得ない。無事を保証する何か。例えば、俺が彼らに害をなそうとすれば、それを止められるだけの何か。

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