第1章 暁闇
視線を斜め後ろにやる。あれだけ騒いでいたこんのすけは、嘘のように静かである。ただ心配そうに、どこか不安をちらつかせてこちらを見つめていた。
「……分かった」
向こうに譲る気配は毛ほども感じられない。このまま平行線を辿るわけにもいかず、了承の言葉を口にする。しかし条件をつけることは忘れない。
「ただし、こちらからも呑んでもらいたい条件がある」
「すぐに頷くことはできぬ。内容を言ってみよ」
「ああ。俺が提示する条件は二つ。一つ目は俺の魂への干渉。二つ目は、身体への物理的な攻撃。この二つはやめてもらいたい」
目を見据えて言えば、三日月宗近は少し考える素振りを見せたあとで、後ろに控えている石切丸の名を呼んだ。
「石切丸」
「うん、そうだね。いいんじゃないかい、その二つは呑んであげても。特に一つ目。これは私たちの身を護るためにも必須だと思うよ」
「そうか。…それはこの人の子の気配と関係があると見て間違いないか?」
「断言していい。無闇に探ろうとするのも得策じゃない。随分力のある御方のようだし」
何やら随分見られているとは思っていたが、それは俺自身ではなく、俺の中に混じっている神気を見極めようとしていたらしい。石切丸。彼は神剣と言っても過言ではないと聞いた。やはり、そういったことに関しては他の付喪神より詳しいようだ。
三日月宗近も石切丸の言葉を聞き、納得したように頷いた。