第5章 雨催い
「この子に何をした」
低く威圧感のある声で、鶴丸が問う。俺は出そうになるため息をぐっと耐え、首を振った。
「手入れだ。それ以外は何も」
しかし、その言葉では納得できなかったらしい鶴丸は、距離を詰めたかと思うと胸倉を掴んできた。
「嘘を吐く気か。ならこの子が泣く理由はなんだ」
睨み、問う。
どうやら、前田の泣き声を聞きつけやってきたらしい。何を言っても、鶴丸は納得しないだろう。基本的に、この刀は俺を信用も信頼もしていないからだ。自分の目で見たことでないと、信じられないのだ。
ならば、返す言葉は決まっている。
「知りたいなら、ここにいればいい」
鶴丸の瞳を見据える。彼の金色の瞳に、俺の深い夜の色みたいな瞳が映る。
鶴丸の顔には、嫌悪にも似たものが浮かんでいる。ただ、鶴丸は正面からの言葉に弱いことはここで過ごすうちに学んだことだった。
舌を打つと、俺の横にどかっと腰を下ろす。