第1章 暁闇
「まずは名を述べよ」
「………っ!」
ぐっ、と唇を噛み締める。思わず言ってしまいそうになった名を、すんでのところで飲み込んだ。
今のはただの言葉ではない。神気が込められた、明らかな「命令」であった。耐性のない人間では自分の意思と関係なく口から出ていたことだろう。
「…、名のることはできない」
「ほぅ…、それは何故?」
理性はあるようだった。どうやら話を聞いてはくれそうだ。
「名は、魂だ。俺の魂を、あなたたちに差し上げることはできない」
「ならば何を差し出せる?」
「俺自身のもので、差し出せるものはない」
「……そちらの掌のうちも見せず、そなたの用件を聞けと言うのか」
「ああ、そうだ」
沈黙が流れる。声から言って、短刀、脇差ではないだろう。これは、成人したものの声だ。つまりは打刀、もしくは太刀、大太刀。その中で、この本丸に残っているもの。ある程度は絞れる。
しかし、まずかったか。
けれど無理なものは無理だ。名を晒せば、それは命を握られるも同然。付喪神にどの程度の力があるかは知らないが、こちらに不利になることをわざわざする理由はない。それになんといっても、俺の魂とやらはすでに売却済みなので。どう足掻いても不可能なのだ。