第4章 玉蜻
「おっと、これは審神者殿じゃあないか」
それはそれは愉しそうに、鶴丸は声を弾ませ言った。そうだろうと思ってはいたが、俺の後ろに立つのは鶴丸国永だった。
湧き上がる恐怖をぐっと押し殺し、頭の中から痛みを追い出す。
「鶴丸、国永。これは、契約違反じゃ?」
発した声はかすれていた。緊張で口の中は乾き、舌をうまく動かせない。頭の中でうるさく喚く声を無視して、押さえつける。
「契約違反?おかしなことを言う。俺は君を傷つけたりしていない。傷をつけたのは、君の意思だろう?」
そう言うと、刀を首筋から離した。
「はっ…、ふ、」
刀が首筋から離れた安心感に、力が抜けそうになる、息が弾み、痛みがぶり返す。手で押さえると、切れた場所が場所だからか、血がべっとりと着いた。それを確認して、目の前が真っ赤になる。これは怒りだ。でも、俺の感情じゃない。
目をつむり、ゆっくりと息を吐く。そうでもしないと、体はあっという間に乗っ取られることだろう。
「ふー……」
かち、と刀が鞘にしまわれる音がした。俺は傷口を抑えたまま、鶴丸に向かう。
「俺の意思?それはあまりにこじつけでは?」
「こじつけなもんか。俺は当てただけだ。切れると分かって動かしたのは君。こうなる可能性を考慮し、結界を張るべきだったのにそれをしなかったのも君」
結界のことにも突っ込まれ、言葉に詰まる。