第4章 玉蜻
「それから、もう一つ」
「君は欲張りだねぇ」
青江の小言を流し、手を止めて尋ねる。
「刀剣男士の血痕は、ずっと残っているものなのか?」
彼らは総じて神である。人ではない。ならば、このようにいつまでも血痕が残っているなどということはあり得るのだろうか。考え込んでいれば、デッキブラシで床をこすっていた同田貫が手を止め、大きなため息を吐いた。
どこか呆れを含んだそれに、わずかに空気が鋭くなる。
「はぁーーー、あのな、よく考えりゃ分かんだろ」
大和守は、こちらの話を聞いているのか聞いていないのか、はたまた聞いてはいるが参加する気はないのか。ただもくもくと作業をしている。
「つまりそいつは、ずっとその怪我を負ったままってことだ」
同田貫の言葉に、ぐっと喉がつまる。
そうだ。少し考えれば分かることだ。この本丸はブラック本丸に認定された本丸であり、刀剣男士たちは一部を除いて酷い傷を受けたままだと知っている。
つい、彼らが普通に接してくれるから、忘れそうになっていた。視野が狭くなるのは、昔から俺の悪い癖だ。
「慰めてあげようか?」
気落ちした俺を見かねて、ずっと傍観者だった鶯丸がそっと頬に触れてくる。触れた手の冷たさが、彼らが神であることを知らしめた。
『境界線はちゃんと引け。曖昧にするな』
頭の中で声が響く。それに返事をして、鶯丸の手をそっとのけた。
「大丈夫。ちょっと考えてただけ」
止めていた手を再び動かす。デッキブラシでこすっても落ちない汚れが、苛立たしかった。