第4章 玉蜻
「そうだなぁ…、」
鶯丸はそう言って俺に一歩近づき、さらにそこから顔をぐっと近づけた。
「君がどうしてもというなら、手伝おう」
それから、囁くように吐息交じりに言われる。呼気が唇に当たって、ぞわぞわとした。
近い。思わずのけぞると、鶯丸はふ、とほほ笑んだ。
「審神者さーん」
大和守が促す。確かにこの大浴場は広い。三人でするにはかなりの時間を要する。吐きそうになるため息をぐっと堪えて、鶯丸の目を見た。
「鶯丸、風呂掃除を手伝ってほしい」
「どうしても?」
「…、どうしても」
「どうしてもと言うなら仕方がない。手伝おう」
どこか満足気な鶯丸に、頬がひきつる。敵意はない。憎悪もない。何か企んでいる様子もないければ、こちらを探る様子もないように思う。だからこそ、分からない。神様って本当気まぐれだなぁ…、と無理やり自分を納得させた。
とりあえず、何もせずに待っているのも何なので、脱衣所から始めることにした。鶯丸が持ってきてくれたバケツと掃除セットはいったん隅におき、その場にあった箒や掃除機で大まかな埃をとっていく。
「ここは比較的穢れがましだな」
「あー…、まぁ、うん」
掃除しながら思ったことを言えば、大和守が微妙な反応をする。
「ここは、ね。中はすごいよ?」
突然背後から声をかけてきたのは青江だった。
「うわっ、びっくりした…」
「ふふ、驚かせてしまったようだね」