第4章 玉蜻
きっと、今までもこうして人に作ったことがあるのだろう。嘗ての主は、彼らに無体を強いたのだと聞いている。けれど、こうして、歌仙に細やかな気配りを教えた人がいたということ。それを覚えているということ。
それは、なんだかとても切ないことのように思えた。
「いただきます」
手を合わせ、食事に手をつける。歌仙は俺の反応が気になるのか、部屋には入らないぎりぎりの位置で見ていた。
まずはお吸い物から。音をたてぬよう気をつけながら、口にした。
「おいしい、」
思わず、ほう、とため息が漏れた。あったかくて、優しい味。どこかほっとするようなそれは、とても上品な味がした。
歌仙の方を見れば、どこか複雑な表情をしていた。彼が何を思ってそんな顔をするのかは分からない。
でも、歩み寄ろうとしてくれている気持ちを無駄にはしたくないなと思った。彼らをどうにかして、救ってやりたいと思った。
仕事の一環としてではなく、ちゃんと知りたいと思った。
「ご馳走様」
どれも美味しかったよ、と感想とともに感謝を伝える。歌仙はやはり、複雑な表情をするばかりだった。