第4章 玉蜻
開けた途端、ふわりと出汁の匂いが鼻孔を通り抜けた。
歌仙の手には、お盆に乗ったお吸い物と、野菜の和え物、焼き魚に白米があった。
突然の視覚と嗅覚の情報量に、理解する前に腹がぐぅと鳴った。
「……正直なお腹だね?」
「う、恥ずかしいな…」
もしかして、持ってきてくれたのだろうか。期待を込めた瞳で歌仙見れば、気まずげに顔をそらされた。
「これ、持ってきてくれたの?」
我慢できずに聞けば、歌仙はやはり気まずそうに呟いた。
「あ、余ったんだ。久しぶりに作ったものだから、量が分からなくて…。決して君のために作ったんじゃない」
「おー。うまそう。めっちゃいい匂いする」
「聞いてるかな?!」
「正直食欲には勝てん」
口の中で作られる唾液に、体はもう食べるモードに入ってしまっている。成人男性の食欲を舐めないでほしい。
「もらってもいい?」
「そのために持ってきたんだから、いいさ。言っておくけど、仕方なくだからな。安定がうるさいから…」
「どんな理由でも、うれしいよ。ありがとう、歌仙」
「……食べてから文句は言わないでくれよ」
「言うわけないじゃん」
歌仙からお盆を受け取り、机に置く。箸置きに置かれた箸。湯気の立つ汁物やお茶。お盆に乗せられた醤油。細かいところに食べる人のことが考えてあって、なんだかたまらない気持ちになる。