第4章 玉蜻
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畑と田んぼが整った。頼んだ苗や種も届き、植える作業が終わった。本丸についている田畑は成長が早いらしく、三日もすれば苗は立派に育っていた。早速収穫していると、こちらを探るような気配がいくつか。ときどき感じる気配と同じものだ。
放っておいてもいいんだけど…、どうしようか。
結局悩んだ末、しばらく保留することにした。
「歌仙、少しいいか?」
かご一杯に収穫した野菜を乗せ、歌仙のいる広間へと顔を出した。間が悪かったようで、すごい顔で睨まれる。特に隣にいる燭台切から。
「おっと…、すまん。出直す」
「いや、いいよ。ここで聞こう」
まじか。思わず傾いたかごから、ニンジンがぼとりと落ちた。歌仙はともかく、その横にいる燭台切光忠とは、会話はおろか碌に顔すら合わせたことがない。今もぐさぐさ刺さる殺気やら憎悪やらに、そっと襖を閉めたい気もちである。
「あー、えっとだな…」
落ちてしまったニンジンを拾いながら、歌仙に目を合わす。
「野菜がとれるようになったんだ。調理をしてくれないかと思って…」
持ってきたんだけど、と続けようとして、燭台切の迫力に口を噤む。正直、神格や神気に気おされるということはない。なんせ俺の中にいるものの方が、遥かに上だからだ。けれどこう、美人の迫力というものはかくも恐ろしいというか何というか。